キアンティとは? キアンティ・クラッシコとの違いやおすすめの楽しみ方を紹介
2023.5.10世界で最も名が知られたイタリアワイン「キアンティ」。どんな食事にも合う万能な赤ワインとして、世界中で愛されている。文化と歴史の香り溢れるトスカーナの美しい丘陵地帯で造られるキアンティの特徴や産地をご紹介する。
目次
キアンティとは?
フィレンツェとシエナの間に広がる丘陵地帯をキアンティ地方と呼ぶ。昔からワインやオリーブオイルの産地として有名だ。生ハム、サラミ、チーズ、野菜などの食材も美味しく、豊かな農業地帯としてフィレンツェを支えてきた。ブドウ畑とオリーブ園が幾何学的に配置され、丘の上にある屋敷に向かって糸杉並木が一直線に伸びるという絵はがきのような美しい風景が今でも残る。
ここで造られる赤ワインはとても美味しく、キアンティと呼ばれていた。主に地元で消費されていたが、どんどん人気が出て、イタリア全土で飲まれるようになった。20世紀に入るとイタリア移民の増大にともない、外国でも消費されるようになり、輸出も盛んになった。特徴的な菰の瓶に入ったキアンティが世界を席巻し始めたのもこの頃だ。世界的需要の高まりによりキアンティ地方だけではブドウが足りなくなり、産地が拡大された。従来のフィレンツェ、シエナにピサ、アレッツォ、ピストイア、プラートの4県が加わった。生産量を増やすことができたキアンティはさらに知名度を高め、イタリアを代表する赤ワインとなったのである。今でもキアンティはイタリアの家庭で最も多く飲まれているワインだ。
キアンティの産地には花の都フィレンツェ、古都シエナ、斜塔が有名なピサ、映画「ライフ・イズ・ビューティフル」の舞台にもなったアレッツォなど美しい町が多くある。近年は産地やワイナリーを訪問するワイン観光も盛んになっている。
キアンティはどんなワイン?
キアンティはイタリアで最も多く栽培されているブドウ品種「サンジョヴェーゼ」を主体に造られる。赤い果実、チェリーの香りにスミレのフローラルなニュアンスが混ざり、口中では上品な果実味があり、酸がみずみずしく、少しスパイシーなタンニンが食欲をそそる。
アペニン山脈の麓にある冷涼な内陸部では香り高く、優美なキアンティが生まれ、ティレニア海に近い温暖な産地では豊潤な果実味を持つキアンティが生まれるといった具合に、多様なテロワールを反映して様々なタイプが造られる。
比較的お手頃価格のものが多いので理想的デイリーワインとして親しまれているが、高価格帯の野心的なキアンティもある。香りや味わいも様々だが、共通しているのはキアンティならではの飲みやすさと魅力的な果実味である。
キアンティの歴史
キアンティで最初にワイン造りを始めたのはエトルリアだ。古代ローマ以前に栄えた洗練された文明で、トスカーナの語源になっている。
古代ローマはエトルリア人のワイン造りとギリシャ人が南イタリアに伝えたワイン造りの技術をうまく組み合わせて、さらに発展させ、帝国全土にそれを伝播させた。古代ローマ帝国のもとワイン造りはヨーロッパ全域で行われるようになる。
ゲルマン民族大移動により西ローマ帝国が滅亡してからしばらくはワイン造りが衰退するが、それを守り続けたのは修道院だった。高い知識と教養を持つ修道士がワイン造りに献身的に取り組んだため、細々ではあるがワイン造りは継承された。
中世も後半になると社会が安定し、ワインは日常生活の中に根付いていき、貴族だけでなく庶民にも消費されるようになる。フィレンツェではアルティと呼ばれる同業者組合(ギルド)があり、重要な政治的役割を担っていた。ワイン商人の組合も認められていて、社会的地位が高かったことがわかる。ルネッサンス期においてワインはさらに重要性を増し、貴族はキアンティ地方に所有する農園でワイン造りを行った。
1716年にはトスカーナ大公コジモ3世が世界で最初のワイン産地の線引きを行い、4産地の境界を明確にしたが、その一つがキアンティで、名声がすでに高かったことがわかる。
1872年にはイタリア王国の首相を務めたこともあるベッティーノ・リカーゾリ男爵がキアンティの品種構成の基礎を定めた。それはサンジョヴェーゼを主体にカナイオーロ・ネーロ、白ブドウであるマルヴァジーア・ビアンカをブレンドするというものだった。これによりキアンティは今日私たちが知っている形となる。
キアンティは1967年にD.O.C.に認められ、1984年にはD.O.C.G.に昇格している。
キアンティを名乗るための条件
キアンティを名乗るには厳しい生産規則を守る必要がある。品種はサンジョヴェーゼが70%以上、残り30%はカナイオーロ・ネーロ、コロリーノなどの土着品種、またはカベルネ・ソーヴィニョンなどの外国品種(15%まで)、トレッビアーノ・トスカーノなどの白ブドウ(10%まで)をブレンドできる。ヘクタールあたり最大収穫量は11トンで、アルコール度数は11.5%以上。「アンナータ」と呼ばれる最もフレッシュなキアンティはすぐに楽しむことができ、収穫翌年3月1日からリリースされる。フローラルな香りが芳しく、生き生きとした果実味を持ち、どんな食事にも合い、トスカーナの食卓に必ずあるベストセラーだ。
「スペリオーレ」や「リゼルヴァ」と名乗るための条件
上のカテゴリーとしてキアンティ・スペリオーレがあり、こちらはヘクタールあたりの最大収穫量が95キンタルに抑えられ、アルコール度数も12%以上。より凝縮感のあるキアンティとなっている。収穫翌年の9月1日から販売することができる。
キアンティ・リゼルヴァは2年以上熟成させてからリリースされる複雑なキアンティだ。良質のブドウを厳選して、長めのマセラシオンを行い、樽熟成することが多い。最低アルコール度数12%。
キアンティ・クラッシコとの違い
産地が拡大される前にキアンティが造られていたキアンティ地方のワインは「元祖キアンティ」であることを明確にするために「キアンティ・クラッシコ」を名乗り、独立したD.O.C.G.となっている。品種構成はサンジョヴェーゼが80%以上。
産地はフィレンツェとシエナの間に広がる丘陵地帯で、東にはキアンティ山脈が延び、西にはエルザ渓谷が広がる。標高も200~700mと変化に富み、石灰岩、砂岩、ガレストロが混ざる土壌は貧しく、気候は比較的冷涼で、果実味、酸、タンニンのバランスが良い優美なワインが生まれる。キアンティと比べると酸とタンニンが強いので、若い時はやや硬い印象を与えるが、2~3年熟成させるとまろやかになる。肉料理との相性が抜群である。
「アンナータ」と呼ばれるベースのものは12ヶ月以上、リゼルヴァは24ヶ月以上、最高格付けのグラン・セレツィオーネは30ヶ月以上の熟成が必要だ。グラン・セレツィオーネには自社畑のブドウしか使用できず、テロワールとの結びつきが明確だ。
キアンティ・クラッシコの産地は7万ヘクタールと広大で、起伏に富んでいるので、村ごとにワインの特徴が異なる。その違いを明確にするためにU.G.A. = Unita Geografiche Aggiuntive / ウニタ・ジェオグラフィケ・アッジュンティーヴェ (追加地理地区)と呼ばれるサブゾーン名をラベルに表記できるようにする生産規則変更が申請されている。
キアンティの楽しみ方
軽やかな果実味、フレッシュな酸、少しスパイシーで心地よいタンニンを持つキアンティは幅広い食事とマッチする。トスカーナではキアンティしか飲まない人も少なくない。タンニンが強すぎないので、少し冷やしてアペリティフにも楽しめる。どんな食卓にも花を添えてくれるワインである。
おすすめの飲み方
中程度の大きさのボルドーグラスが使われることが多いが、あまり拘る必要はなく、小さすぎなければ大丈夫だ。現地では普通のグラスで飲んでいる人も少なくない。細かいことを考えずに楽しむことのできるワインである。
サービス温度は少し低めの方が生き生きとした果実味が引き立つ。フルボディの赤ワインのサービス温度とされる16~18度ではなく、12~14度ぐらいがいいだろう。
キアンティに合う料理
地元トスカーナでは生ハム、サラミ、ペコリーノチーズ、レバーペーストをのせたクロスティーニ(カナッペ)などの前菜、野ウサギや猪のラグーソースのパスタ、フィオレンティーナ・ステーキ、豚のローストなどの定番料理と楽しまれている。若いキアンティであればトマトソースのスパゲッティやピッツァとの相性もいい。
中華料理とも最高だ。餃子、春巻き、八宝菜、酢豚、青椒肉絲、麻婆豆腐など少し脂っこい料理でも適度のタンニンと酸が口中をスッキリさせてくれる。醤油との相性がいいので、すきやき、豚の角煮、筑前煮、焼き鳥、豚の生姜焼きにも合う。国籍やジャンルを問わず、庶民的な料理にとてもマッチするワインである。
おすすめのキアンティ3選
キアンティ・クラッシコの中でも標高が高く冷涼な気候のラッダ・イン・キアンティの単一畑で生まれる著名なワイン。フレッシュな赤い果実やスミレの香りはとても繊細で、タンニンと酸が堅固で、シャープな味わい。余韻が果てしなく続く。肉料理を呼ぶワインで、定番のフィオレンティーナ・ステーキ、豚や羊の炭火焼き、オッソブーコ(仔牛のすね肉の煮込み)などと相性がいい。洗練されて、厳格なサンジョヴェーゼを好む人向き。
3週間ほど陰干ししたブドウを約15%使うゴヴェルノ・トスカーナという伝統的な手法で造られる。陰干し葡萄が丸み、深み、柔らかさを与え、しっかりした味わいとなる。チェリーの香りにプラムなどのニュアンスが混ざり、口中でもボリューム感がある。キアンティらしいフレッシュさは残るが、酸はやさしい。タレを使った焼き鳥、豚の角煮、すき焼き、魚の煮付けなどに合う。深みと包容力のあるまろやかなサンジョヴェーゼを好む人向き。
ピエモンテの著名生産者ラ・スピネッタがピサ郊外にある丘陵地帯で造るキアンティ・リゼルヴァ。温暖な気候なのでブドウは完璧に成熟し、貝殻の化石が混ざる砂が多い土壌は上品なミネラルをワインに与える。熟したベリー、プラムの香りで、甘い果実を感じさせる味わい。フルボディだが、優美。塩をつかった焼き鳥、バーベキュー、ローストビーフなどに合う。しっかりとした果実味と調和のとれた味わいのサンジョヴェーゼを好む人向き。
まとめ
キアンティは幅広い料理に合う美味しいワインだ。産地と強く結び付いているので、キアンティを飲むとトスカーナの美しい田園地帯が目に浮かぶような気分になる。
気取らないワインであることも嬉しい。特別な料理を用意しなくてもいい。家庭で毎日食べている料理に実によく合う。キアンティが食卓にあるだけで、とても幸せな気持ちになれるのである。
1959年京都生まれ。東京大学経済学部卒業。1983年から1989年までローマの新聞社に勤務。現在イタリアと日本でワインと食について執筆活動を行っている。イタリアでは2004年から10年間エスプレッソ・イタリアワイン・ガイドの試飲スタッフ、ガンベロ・ロッソ・レストランガイド執筆スタッフを務める。現在「ガンベロ・ロッソ・イタリアワインガイド」日本語版責任者。1年の3分の1をイタリアで過ごす。日本ではワイン専門誌を中心に執筆するとともに、ワインセミナーの講師、講演を行う。BSフジのTV番組「イタリア極上ワイン紀行」の企画、監修、出演を務める。著書に「10皿でわかるイタリア料理」「最後はなぜかうまくいくイタリア人」(日本経済新聞出版社)、「イタリアワインマニュアル」(ワイン王国刊)など。2013年にグランディ・クリュ・ディタリア最優秀外国人ジャーナリスト賞受賞。2014年、イタリア文化への貢献により“イタリアの星勲章” コンメンダトーレ章(Commendatore dell’ Ordine della Stella d'Italia)をイタリア大統領より授与。