バルバレスコとは?
「イタリアワインの女王」の魅力とおすすめ銘柄を解説
2024.11.5
バルバレスコは、イタリア北西部、ピエモンテ州のクーネオ県にあるランゲ地域で生産される赤ワインです。この地で栽培されるネッビオーロ種のブドウから造られ、バローロと並び、イタリアを代表する高品質な赤ワインの一つとされています。「ワインの王、王のワイン」と呼ばれるバローロに対して、バルバレスコは「ワインの女王、女王のワイン」として知られています。
比較的早くから楽しめるのが特徴で、繊細なアロマとタンニン、エレガントな味わいが魅力です。バルバレスコは、その生産地域が小さく、栽培、醸造、熟成の各段階において厳しい生産ルールのもとで造られるため、高い品質が保証されています。 この記事では、バルバレスコの特徴と魅力を徹底解説していきます!
目次
バルバレスコの起源、名前の由来
バルバレスコ、という名前の由来はいくつか説があります。ローマ帝国滅亡の原因となったBarbarian(野蛮人)が由来しているのではないか。または、ガリア人が魅了された「Barbaritium」というワインの名前からきているのか。はたまた、ローマ時代は森のようになっていたバルバレスコエリアの、"barbarica silva"(野蛮な森)という意味から来ているのか・・・諸説ありますが、18世紀にはバルバレスコがワイン生産地として言及された最古の文献があり、すでにネッビオーロが植えられていたようです。
本格的なバルバレスコのワインが誕生したのは、1894年、ドミツィオ・カヴァッツァによりバルバレスコで最初の共同組合が設立された際です。その後の大戦とカヴァッツアの若すぎる死によってバルバレスコは一時苦境に陥りますが、1950年代後半、バルバレスコの鬼才「イタリアワインの帝王」と言われるアンジェロ・ガヤと、ブルーノ・ジャコーザによる、国際マーケットを視野に入れた革新的なワイン造りのおかげで、バルバレスコは世界的に有名で高級なワインとしての位置付けを確固たるものにしました。その後、バルバレスコは1966年にD.O.C.に、そして1980年にはD.O.C.G.へと昇格し、世界的に品質の信頼されたワインとして認知されています。
ワインのスタイル
バルバレスコは法律の規定により、必ずネッビオーロ100%から造られます。ネッビオーロは色素が不安定であるため、褪色しやすく、ワインの色が真っ黒になることはありません。また、バルバレスコは長い熟成期間が義務付けられているため、熟成によってワインの色はさらに褪色し、外観は淡いガーネット色(オレンジがかった赤色)をしています。香りの特徴は、ネッビオーロ特有の赤いフルーツの香りが中心となります。レッドチェリーやレッドプラム、バラ、ドライイチジクのような香りもします。バローロに比べると、少し熟した果実の香りがすることも特徴です。
法定熟成期間は最低26ヶ月。うち樽での熟成は最低9ヶ月と決められていて、樽に由来するスイートスパイスの香りやロースト香がします。新樽を使う生産者は少ないですが、時たまヴァニラやチョコレートのような甘い香りがすることもあります。熟成期間が長いため、キノコや枯れ葉、レザーやタバコなど熟成由来の複雑な香りもします。熟成能力の高いワインですので、ワインがどんどん変化していけるポテンシャルがあり、10年以上熟成することができます。
飲んでみると酸は高く、タンニンも存在感はありますが、タンニンが甘く滑らか。エレガントな飲み口です。バルバレスコを飲んだ時の口当たりを表現すると、まず口に含んだ瞬間に甘いタンニンが感じられ、口の中を包み込んでくれるような感覚があります。高貴でありながらも優しく包み込んでくれるワインの酒質が、まさしく、「ワインの女王」と言われる所以かもしれませんね。
中盤からは、高貴な女王ならではの、芯の強さのある味わいが口の中に広がっていきます。アルコール度数は14%を超えることも多いですが、果実味、酸とタンニン、凝縮感のバランスが取れているためアルコール感はさほど気になりません。 食事との相性も良く、特にトリュフ料理や肉料理とのペアリングがおすすめです。バルバレスコを楽しむ際は、開栓後に空気に触れさせるデキャンティングを行うことで、より豊かなアロマと味わいを引き出すことができます。
バローロとの違い
バローロの影に隠れてしまい特徴を知らない方も多いバルバレスコ。実はワイン入門者の方にはバローロよりも親しみやすく、おすすめのワインです。バローロとバルバレスコはいずれも同じ品種、近しいエリアで造られる赤ワインでありながら、それぞれ異なる特徴を持っています。バローロはより力強く、タンニンが高いと評され、長期熟成によってそのポテンシャルを最大限に発揮します。
一方、バルバレスコはバローロに比べてるとタンニンが柔らかく、繊細な味わいが特徴で、若いうちから楽しむことができます。バローロとバルバレスコの生産地域は地理的にも近接していますが、標高など微妙な気候の違いや土壌の特性が、ワインの違いに影響を与えているのです。
位置関係としてはイタリア最大の川、ポー川の支流であるタナロ川の南側にバローロとバルバレスコが並んでいます。真ん中にトリュフで有名なアルバの街があり、北東部にバルバレスコ、南西部にバローロ、という位置付けです。
さて、気候について考えて見ると、バローロとバルバレスコ、どちらが暖かいと思いますか。正解はバルバレスコです。地形的にみると、バルバレスコの方が北にあるのでなんとなく北の方が涼しいと思いがち。ところが、ピエモンテ州は南にはリグーリア州のリグーリアン・アペニン山脈(アペニン山脈の始まりのあたり)が、西にはアルプス山脈の海洋アルプス山脈があり、南や西の方が標高が高くなっています。つまり、バルバレスコの方がバローロよりも標高が低く、果実が早く熟し、収穫のタイミングも1週間ほど早くなるのです。標高が高くなると、日較差(昼夜の寒暖差)により、ブドウに酸が保たれます。酸が高くタンニンが多いと、口の中で収斂性が強くなります。ところがバルバレスコはバローロに比べ日較差が少なく温暖なため、タンニンが甘く、熟した果実感が出やすく、若いうちから楽しむことができます。
さらにバルバレスコをより親しみやすくしている要因が土壌です。バローロの一部とバルバレスコは地層の年代が違い、バルバレスコの方が地層年代が新しいものが多く、土壌が肥沃です。バローロの東側に多い古い土壌(Serravallian)は土壌が痩せていて栄養が少ないため、タンニンが強靭で堅くなりがち。飲み頃も先になります。ところが、バルバレスコの土壌は新しいものが多く(Tortonian)、肥沃であるため、タンニンが柔らかく飲み頃が早くなりやすいのです。
バルバレスコの生産地域
バルバレスコは、バルバレスコ村を含む4つのコムーネでのみ生産が許されており、限られた生産量のみが世界市場に出回っています。栽培面積、年間生産量はバローロの3分の1ほど。とても小さなエリアでワイン造りが行われています。生産地域はバルバレスコ、ネイヴェ、トレイゾ(旧バルバレスコ村)、および旧バルバレスコ村の一部であったサン・ロッコ・セノデルヴィオを含むアルバ自治体のエリアも4つのコムーネに含まれます。
最近のトレンドとしては、このコムーネの中のさらに小さな生産地域で、MGA(Menzioni Geografiche Aggiuntive)が注目されています。バルバレスコには66個、バローロには181個あります。バルバレスコで有名なものには、アジリ、ラバヤ、パイエなどがありますが、これは単純にブドウの畑の場所の違いで、醸造などの規定の違いはありません。ネッビオーロはテロワールの鏡。変異性が高く、育てるのがとても難しい品種であります。どの畑で、どのような環境で造られたワインなのかによって味わいが変わるので、注目が集まっています。
バルバレスコのおすすめ銘柄3選
数あるバルバレスコの中から、特に品質が高く評価されているおすすめの銘柄をご紹介します。
ラ・スピネッタ/ボルディーニ・バルバレスコ
ラ・スピネッタ
ボルディーニ・バルバレスコ
/750ml
14,006円 (税込) ~
ボルディーニは4つのコムーネのうちのネイヴェにあるMGA。標高は240m。南東向きの畑です。土壌は泥石灰質で少し砂もあります。アルコール発酵は15日程度。その後フレンチオークに移してからマロラクティック発酵。17ヶ月の熟成後、さらに瓶で7ヶ月熟成させます。
いちごや赤いフルーツの香りに甘やかなネクタリンの香りもします。シナモンや杉、セージ、キノコの香り、ジンジャーや緑茶のニュアンスも。フルーツの果実感がイキイキとしていてタンニンはまだ若々しくありますが、ストラクチャーがあるため熟成する姿を想像してワクワクするワインです。今飲んでもよし、熟成も楽しみなワインです。
ラ・スピネッタ/スタルデリ・バルバレスコ
ラ・スピネッタ
スタルデリ・バルバレスコ
/750ml
33,360円 (税込) ~
こちらもネイヴェにあるMGA。標高は230m。南西向きの畑です。青みがかった泥石灰土壌に、少し粘土が入ります。アルコール発酵はボルディーニと同じく15日程度。その後にフレンチオークに移してからマロラクティック発酵。新樽比率は30%。19ヶ月の熟成後、さらに瓶で8ヶ月熟成させます。新樽を使い、熟成期間も長く設けていて、高級ワインの風格を感じずにはいられません。こちらのワインはなんと、世界的に有名なワイン評論誌「The World of Fine Wine」の編集者、ニール・ベケットに率いられたワイン鑑定士と批評家たちによって選び出された「死ぬまでに飲みたい1001本のワイン」という本でも選出されているワインです。グラスに鼻を近づけるだけで凝りの密度が高く、香りだけでも格が違うことが明らかに感じられます。ドライスミレ、スパイス、野性のイチゴの香り、アロマティックなハーブ、ラ・スピネッタのワイン特有のマスカットのような甘いフルーツの香り。飲んでみるとバルバレスコには珍しい少し乾く感じのあるタンニンが、ただものではない感をひしひしと感じさせ、凝縮感があり、熟成能力も高いです。スタルデリのタンニンや味わいは大物の風格ですが、もぐもぐと味わいを噛み締めたくなるのがバルバレスコ。このワインはお肉はもちろん、トリュフとも合わせたい!
フォンタナフレッダ/バルバレスコ
こちらはバルバレスコ村全体のブドウを使って造られます。標高は300~400m。南向き、もしくは南西向きの畑。高めの温度でアルコール発酵後、発酵後浸漬を行い、タンニンを抽出します。最低1年は、フレンチオークもしくはスラヴォニアンオークの大樽で熟成。6ヶ月以上の瓶熟成をします。赤いフルーツにスミレのような花の香り、樽から来るヴァニラの香りがします。熟成由来の枯れ葉の香りもあり複雑です。果実がしっかり熟していて、鉄分を含む余韻が特徴。焼肉や甘いソースを使ったお肉料理にもピッタリ。バルバレスコの中では比較的安価なため、カジュアルにお食事に合わせられる親しみやすさがあります。
バルバレスコの選び方
バルバレスコを選ぶ際は、生産者とヴィンテージに注目することが重要です。信頼できる生産者からのワインは、一貫した品質が期待できます。また、年によって気候条件は大きく異なるため、良い年のワインは特に求められます。評価の高いヴィンテージを選ぶことで、最高のバルバレスコ体験が得られるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。芯がありながらも優しく包み込んでくれるバルバレスコ。もぐもぐと噛み締めたくなるような味わい深さもあり、親しみやすさと説得力のあるワインです。早いうちからも楽しめますが、その後の熟成による変化も楽しむことができます。この記事を通してバルバレスコの魅力を知っていただき、ぜひ楽しんでいただけましたら幸いです。
株式会社aiVino代表
VIA認定イタリアンワインアンバサダー
VIA認定イタリアンワインエデュケーター
WSET®Diploma
ヴァルポリチェッラワインスペシャリスト(Consorzio Tutela Vini Valpolicella)
JSAワインエキスパート
JSA SAKE DIPLOMA
CPA チーズプロフェッショナル
女優業からワイン業界へ転身。ワインスクール、アカデミー・デュ・ヴァンにてイタリアワイン講師を務める。
また、自身の会社にてイタリアワインの販売・輸入も行う。年に数回イタリアに足を運び、最新のイタリアワイン情報を織り交ぜながら、イタリアワインの魅力を伝えることに情熱を持っている。